「今までかゆくみがひどくなると、授業の途中で退出していたのですが、退出しないで済むようになってきました」
ある日の治療中、そうおっしゃってくれたのは、大学一年生の女性。
中学生の頃より症状があり、継続してステロイドを使用しているが、大学生になってから
マシになってきたかと思うと、生理前になって再び悪化し、を繰り返していた。
「今、生理前なんですけど、いつもの生理前よりはマシになってきています」
とのこと。
確かに赤みや傷が減っている。
長らく一進一退を繰り返していたが、この2,3回は治療方針を変えて様子を見ていたところ、良性の変化が出てきた。
もちろんまだまだ安心できないが、少しでもご本人のほっとした表情、明るくなった声を聴くことができたという点は素直にうれしかった。
どの年代の方でも同じではあるが、特に女性の学生は、少しでも悪化すると精神の落ち込みが激しくなりやすい。
しかし彼女はそういうそぶりは全く見せない。
静かに淡々と治療を受ける。
内心かなりつらいはずなのに、良くならないことへのいら立ちやそのことへの不満を私にぶつける気配もない。
それだけで、とても強く優しい女性だということがお分かりになると思う。
授業中に体を掻くという行為は、きっと見られたくないだろうし、見せたくないのだと思う。相当気を使うはずだ。
だから授業の途中で退出する。
そして退出して一人、傷ができるまで掻きむしっている。
そうしている姿を思うと、胸に迫るものがある。
どんなに孤独だろうか?
もしかして一生このままなのかも、という思いもあるかもしれない。
鍼灸師として、そこは絶対に力になりたい。
何のために鍼灸師でいるのかって、こういう時のためだ。
こういう方の力になる為だ。
大げさでなく、一人の人間の人生に大きく関わっている。
初診の時に、一緒に来られたお母さん。
本人はもちろん、家族の思いも託されている。
一人の患者さんと、その奥に存在する家族。
そういったことにも想いを馳せながら、冷静さと気迫をもって次も臨みたい。