高校生女子 2020年6月初診から、半年間の経過を経たタイミングでの、ある治療中の会話の風景
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吉「〇〇さん、今だったら半袖になれるの?」
患「あ、半袖になりました!」
吉「え?いつ?」
患「先週です。こないだ外部のサークルに入って、バドミントンやりました。」
吉「あ、そうなの?だいじょうぶだったの?半袖でやったの?」
患「はい、全然大丈夫でした」
吉「あ、そうなんだー、よかったじゃーん!!」
患「うふふ」
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さかのぼること半年前。
6月ある日。初診ではなく、2回目か3回目あたりの会話の内容
以下、概要。
数日後から学校へ行くというタイミング。
3日前より急にかゆみが強くなり、肘を中心に強く引っ掻き、傷が増えてきた。
夜も眠れず、便通もここ1週間は毎日出なくなり、2日に1回になってきた。
かゆみが悪化した原因は、学校への登校が近づいてきたため。
2020年はコロナの影響でずっと学校が休みだったため、6月が初登校という中途半端な時期。
以下、会話の一部。
吉「今回の悪化について、何か変わったこととか思い当たる節はありますか?」
患「学校が始まるんですけど、行きたくないです」
吉「なんで行きたくないんですか?」
患「体育があるのが嫌です」
吉「半袖になるのが嫌ですか?」
患「はい」
吉「長袖で授業は受けられないんですか?」
患「長袖でもいいんですけど、友達に「どうしたの?」って聞かれて、それに対していちいち答えるのが嫌なんです。あと、みんな半袖なのに、私一人だけ長袖でいるというのも嫌です」
吉「体育の授業だけ休むっていうのはアリなんですか?」
患「去年の夏に、膝裏がグジュグジュになっちゃって、あまりにも嫌で学校の先生に相談したんです。そしたら「うわ、ひどいね」って言われてしまって、それがすごく嫌でした。そんなこと言うくせに「力になるから何でも相談してね」なんて言われたんですけど、言えない」
吉「学校には相談できる人っています?先生でも、友達でも」
患「友達で一人だけ話しました。その子もアトピーで、今はきれいになっているんですけど、その子には打ち明けてLINEでよく相談しています。脱ステしているのに「病院にはいかないの?」とか「薬は使わないの?」と聞かれて、それも嫌なので、他の友達には言っていません」
吉「学校に行くか、行かないかってもう決めてるんですか?」
患「行きたいし、やりたいこともあるんですけど、行けないです。去年学校に行ってた時は、前の夜からすごく嫌になっていきたくなかったです。朝、家で着替える時も嫌で、部屋の電気を暗くして着替えたりします。自分の肌を見るのも嫌です。朝、着替えて準備万端で、あとは靴を履いて出るだけ、というタイミングで「やっぱり行けない」ということもあります」
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一言一句正確ではありませんが、大まかな内容を記しました。これを書いている現在、半年後の12月ですが、今になっても忘れない内容です。それだけ本人の切実さが伝わってきていました。
わかりますでしょうか?
学校へ行きたいが、周りの視線を気にしてしまう、周囲の注意・興味が煩わしい。
相談した教師に「力になるから何でも相談してね」なんて言われたんだけど、言えない。
「言えない」という言葉に、どれだけの苦悩を重ね、抑圧を抱えてきたのか。
小さいころからアトピーの方ならば、「よくわかる」と思う方もいるのではないでしょうか?
人の視線一つ、言葉一つにいちいち傷つくのがアトピーです。
そして半年後、冒頭の会話へとつながります。
ある程度かゆみが落ち着くのは早かったですが、色素沈着が気になっていたため、「半袖になれる?」という質問には「まだ無理」という時期が続いていました。
毎回聞くわけではないのですが、「以前より変わってきたな」というタイミングで聞くようにしていました。
で、今回は「半袖を着られた」という声を聴けたわけです。
とてもうれしかったです。
もともと活動していたバドミントンの部活もやめてしまったので、また始めていることにも驚きと喜びがありました。
せっかく連絡をもらっても返信することすらできず、会わずに連絡を絶っていた友達に対して「会いたい」と自分から連絡を取って、会っていたことにも驚きと喜びを感じました。
外出する際、近くの駅を同級生が通らないか、会わないように、顔を見られないように心配しながら利用することがなくなったこともうれしかったです。
「もう駅に行くことも普通にオッケーですか?」
間髪入れずに「はい」と。
「かゆみが減った」「良くなった」
こういわれることも、もちろんうれしいですが、ここまで行動が変わり、前向きに動いている報告を聞けて、本当にうれしかったです。
目が潤みました。
よかったなぁ。
涙は出ませんでしたが、鼻はすすりました(笑)
現在12月。1年の終わりに非常に良い報告を聞くことができました。
新たな出会いの場でこのような会話があったそうです。
「○○さんて、テニスやってる人だと思った」
「え?なんでですか?」
「首が黒かったから」
決して悪気のない一言ではありますが、そこに悩んでいる本人にとってはとても傷つく人ことです。
が、彼女はこういいました。
「あんまり気にならなかった」
おぉ!
「私、強くなったみたいです」
彼女はぼそっと一言つぶやきました。
「いやいやいや、もともと強かったよ、アナタ(-_-;)」
私はこそっと胸の中でつぶやきました(笑)
この子は芯がすごく強かった。
我慢強い
良くも悪くもため込むタイプ
よく耐えていた。
いろいろなこと・シーンに対して、嫌だと思い、しかし嫌だと思う自分に嫌だと感じる、自己嫌悪に近いものを持っていた。
本心は聞いてないので定かではないが、しかしそれは裏を返すと、自分を信じたいことの表れであり、事実自分を信じていた。
信じる力が強いからこそこれだけ苦しい。
あきらめてない。
何一つあきらめてない。
その要素が一つもない。
状況はひどくてもギリギリまでやろうとしている。
最初から投げ捨てていない。
何とかして先生にも打ち明けた。
とてつもない勇気。
これはあきらめていない証拠。
あきらめている人はそんなことしない。
何とか打破したいという想い。
何もあきらめていない。
とても強いし、大人です。
学校へ行くか行かないか?
それを制服着て玄関に行くところまで、ふつう、こんなギリギリのところまで悩みます?
普通は前日くらいには決めてますよ?
弱いわけないでっしゃろ??(笑)
「あんたは強いんや!」
謎の関西弁が出たところで、そろそろ。
彼女の変化・行動の変容はもちろん、向き合う強さというのも、同じアトピーに悩む方にとって、大きな勇気をもらえたのではないでしょうか?